西堀哲也
西堀酒造株式会社蔵元、SAKERISE取締役
明治5年創業の酒蔵。代々醸してきた酒蔵に棲む、蔵付き酵母の力を借りて現在も日本酒を醸しています。
2020/
08/30
このたび、日本経済新聞様にて、醪(もろみ)の遠隔品温管理システムの独自開発をご紹介いただきました。
DX(デジタル・トランスフォーメーション)の第一歩としてご紹介いただいたのですが、最初はこの「DX」という言葉、てっきり「デラックス」だと思っていました。
調べてみると、DX(デジタル・トランスフォーメーション)は政府をあげて今の日本企業に実施を推進しているもので、たとえば、経済産業省の2020年版ものづくり白書では、”製造業の企業変革力を強化するデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進”などと銘打たれています。
一般的に、DXといえば、単純なIT化・システム化で理解されがちとのことですが、単純な生産性UPや効率化、といった狭義の意味ではないようです。
コロナ禍も相俟って、当蔵を含め中小零細企業は岐路に立たされています。
人手不足と高齢化というマクロ動態は最早自明であるなかで、いかに生産性を上げるかというのは、経営者の当然の工夫だと思います。
さらに、リーマンショック、東日本大震災、新型コロナ、約十年経たずに想定外の経済的打撃が発生しています。
まさに「不確実性」に対峙するVUCA時代。
高度経済成長期の右肩上がりの「想定可能な」グラフを描くことが困難な現代、「選択と集中」から「多角化・ポートフォリオ」へのシフトが働いています。
レジリエンスという言葉も人口に膾炙した現在、一見関係のない領域との掛け算や工夫は、経営サイドとして一考に値するのではないかと思います。
たとえば、今回の取り組みは、一見すると単なる効率化・生産性向上のスポット対応と映るかと思います。
しかし、ソフトウェアとハードウェアの世界を横断するとわかるように、まだまだ多くの可能性が、伝統産業・ものづくり産業には残されています。
今回も、10年前ではまず実現できなかった現代の最新技術によって、非常に低コストで中小零細企業でも投資可能な取り組みとなりました。
たとえば昔であれば、専用サーバーを自社で管理し、グローバルIPを設定し、外部からのアクセスを可能にし、と非常に膨大な手間とコストがかかったはずです。
しかし、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)などのクラウドサーバーがそのハードルを一気に下げ、さらにRaspberry Piといった、趣味のDIYツールの延長ともいうべきIoT機器が、産業機械の世界の設備投資コストを極限まで低減させます。
そして、ソフトウェアの世界では、あらゆるサービスがAPI開放などにより、オープンソース化し、ソフトウェアの情報空間上で連関できる世界になってきました。
将来的には、中小零細企業であっても、ERP(統合基幹業務)システムと同等の効果を、種々の安価なサービスを組み合わせることで莫大な投資をかけずに実現できるのではないかと思っています。
IT技術の効果的な運用によって、企業は硬直化を解きほぐし、機動性をもたせるとともに、デジタルがもたらす新たな価値創造を推し進め(DX)、さらに企業同士のコラボ・協業といった、緩やかな連関・掛け算としての「多角化・ポートフォリオ」が可能な時代だと考えています。
これはまさにVUCA時代の対処そのものではないでしょうか。
まだまだ一零細企業として、このコロナ禍で先が見えないのも事実です。だからこそ、出来ることをどんどんやる、それに尽きると思います。失敗を怖がる余裕があること自体が、もはや万々歳の時代です。
変化の時代には変化で対応する。
ゴルフ打ち(静に対して動)ではなくバッティング(動に対して動)の感覚で、毎日スイング練習です。(笑)
学生時代、野球部で素振りしていた日々が懐かしい今日この頃です。